アスラクウエディングプラン10:会場選び 小説ver. (文/山吹由沙様)
10月29日は、アスランの誕生日です。
結婚して初めての誕生日を迎えるこの日、ラクスは朝から気合いが入っていた。
「アスランが驚くようなものを作りたいですわ」
誕生日といえば、やはりケーキ。
だが、アスランはあまり甘いものを多く食さない。
たくさん食べてもらうには、甘さ控えのものを作る必要がある。
というか、それ以前にラクスはケーキ自体作ったことがない。
「まずは、作り方を調べましょう」
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エプロン姿のまま、PCの前に座るラクス。
使い方を知ったのはつい先日。
アスランに教えてもらったことを思い出しながら、慣れない手つきでキーボードを叩く。
『甘さ控えめなケーキの作り方を教えてください』
ポチッ
「・・・まぁ、沢山出てきましたわ」
しかし、検索にかかったのはシフォンケーキやパウンドケーキなど、在り来たりなものばかり。
「これではアスランが驚いてくれませんわ・・・」
何か他にないものか。
その後も幾度となくキーボードを叩くラクス。やがて・・・
「・・・!まぁ、これは珍しいですわ。これを作りましょう!」
ラクスは目を輝かせ、隣にいたピンクちゃんに目を向ける。
「ピンクちゃん、お買い物に参りましょう!」
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スーパーへとやってきたラクス。
材料をメモした紙を見ながら、一つ一つカゴへいれていく。
「牛乳、生クリーム、小麦粉、バター、卵・・・」
と、ここで聞きなれない単語を目にする。
「・・・ピンクちゃん、“ケール”って何かご存知ですか?」
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なんとか買い物を済ませ、キッチンに立ったラクス。
ようやくケーキ作りの開始である。
@キャベツを切る
ザクッ ザクッ ザ・・・
「っ!」
「ラークースー!」
「大丈夫ですわ、ピンクちゃん。少し指切ってしまっただけです。
アスランには内緒ですよ?心配されますから・・・」
Aミキサーにかける
「これなら指を切る心配もないですわ」
だが・・・
「・・・ピンクちゃん、ミキサーってどうやって扱うのでしょう?」
B生地の材料を混ぜ合わせる
「これは簡単です♪」
C生地を一枚一枚のばす
「うーん・・・なかなか同じ形にするのは難しいですわね・・・」
D生地をオープンで焼く
「焼けましたわ!・・・っ」
「ラークースー!」
「すぐに冷やせば大丈夫ですわ。これもアスランには内緒ですわよ?」
E生地にカスタードクリームを塗る
「ふふっ、楽しいですわ♪」
F生地を丸めて、形を整え・・・
「完成ですわー!」
「ヤッタナー!」
「はい!ピンクちゃんの応援のおかげですわ。
でも、のんびりしている時間はありませんのよ?まだまだ作るものは沢山ありますわ」
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そして夜。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、アスラン。お待ちしておりましたわ」
リビングへ入ると、テーブルの上にはご馳走が。
もちろん、アスランの大好物であるロールキャベツもちゃんとある。
「すごい・・・これ、全部ラクスが作ったんですか?」
「はい。だって今日はアスランの誕生日ですもの」
「ラクス・・・ありがとうございます」
「ですがアスラン、よく見て下さいませ。何か足りないと思いませんか?」
「えっ・・・?」
ラクスに諭され、テーブルの上をよく見る。
足りないもの・・・足りないもの・・・誕生日・・・
「・・・ケーキ・・・?」
「正解ですわ!アスラン、目を閉じて下さいませ。
わたくしがいいと言うまで開けてはいけませんよ?」
「え、あ、はい・・・」
言われるがまま目を閉じるアスラン。
しばらくすると、カタッと小さな音を立てて目の前に何かが置かれた。
「開けていいですわ」
ゆっくりと目を開けるアスラン。目の前に置かれていたのは・・・
「・・・キャベツ?」
「はい!キャベツですわ!」
「ええと、あの・・・俺はてっきりケーキが出てくるものかと・・・」
「はい、ですからこれがケーキですわ!」
とは言われたものの、目の前に置かれたのはどう見てもただのキャベツ。
アスランは確かにロールキャベツが好きだが、キャベツ単品が特別好きというわけではない。
「ビックリしましたか?」
「え、はい・・・」
「ふふっ、大成功ですわ♪」
「ええと、ラクス・・・?意味がよく・・・」
「実はアスランをビックリさせたくて、変わったケーキを作りたかったのです。
それで色々調べてみたら、これを発見しましたの!」
「・・・つまり、これはケーキなんですか?」
「はい、キャベツの形をしたケーキですわ」
そういうことか。ようやくアスランの合点のいく回答が得られた。
「さぁ、アスラン。召しあがって見て下さいな」
そう言って目の前のケーキを取り分けるラクス。
その指には沢山の絆創膏が貼られていた。
「ラクス・・・その指は・・・」
「・・・あ、見つかってしまいましたわね。でも大丈夫ですわ!少し切ってしまっただけです」
さぁ、食べて下さいな!
ラクスに言われるがまま、切り分けられたケーキを一口含む。
「いかがでしょうか・・・?」
「・・・うん、美味しいです」
「本当ですか!?」
「はい、甘さも控えめでちょうどいいです」
「良かったですわ。実は味見をしていなくて心配してましたの」
「そうだったんですか?」
「ええ。それにアスラン、甘いものをあまり多く食べられませんでしょう?それで甘さ控えめのものを・・・」
「ラクス・・・。色々、考えて下さったんですね・・・」
「当然ですわ。わたくしはアスランの妻ですもの」
にっこり微笑むラクスに、アスランの胸が打たれた。
どおりで、優しい味がするはずだ・・・。
アスランは絆創膏だらけでラクスの手を取ると、その指にそっと口づけを落とす。
「アスラン・・・?」
「ありがとうございます、ラクス。俺は幸せ者です」
そう言ってラクスの手を引き、そのまま体を抱きしめる。
「あなたと結婚して良かった」
「・・・アスラン・・・」
「愛しています、ラクス」
「わたくしも、愛していますわ・・・アスラン」
ゆっくりと互いの瞼が閉じ、唇が重なった―――。
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『な〜んていう、新婚ホヤホヤ!ザラ夫妻のプライベートな結婚生活も盛り沢山なザクシィ最新号は、明日発売予定でーす!』
甲高いインタビューアーの声が画面越しに響き渡る。
『ラクス様、本日はありがとうございました』
『こちらこそありがとうございます』
『最後に何か一言ございますか?旦那様もご覧になってるかもしれませんよ?』
『・・・そうですわね・・・』
何かを考え後、コホン、と小さく咳ばらいをし、ラクスが口を開く。
『お疲れ様です、アスラン。・・・あなたのラクスですわ』
自分で言ったにも関わらずポッと頬を染めるラクス。
『最近、お帰りが遅いので心配ですわ。お仕事も大変でしょうが、
早く帰れそうであればお早いご帰宅をお待ちしております。――今夜は、シャワーを浴びてお待ちしておりますわ」
『おーっと大胆発言!これはお子さん誕生も間近かー!?
色々お聞きしたいところですが、そろそろ時間となりました。本日のゲストはラクス・ザラさんでした!ありがとうございましたー!』
休憩中、たまたまつけたテレビでバッチリ今の一言を聞いてしまったアスラン。
持っていたコーヒーがドバドバと床にこぼれおち、顔が完全に青くなる。
そして、ドドドドドドッという地響きにも似た足音とともに、銀髪の同僚が部屋に飛び込んでくるまで、あと5秒――。
完